わたしは右利きであり、世の中もだいたい右利き向けにできているので、普段それほど不都合を感じることはないのだが、今までの人生で左手も本格的に活躍してもらわないといけない場面が、2度ほどあった。
初めて正社員として雇われた会社で最初に覚えさせられた仕事が、伝票の整理と電話応対であった。
清涼飲料を販売する会社の事務員の仕事だったので、顧客からの注文の電話もあれば営業の人からの注文内容の入力依頼の電話もあれば自動販売機にお金が詰まったという一般人からの電話もあり、ひっきりなしに電話がかかってきていた。
その際、電話の受話器を、左手で取れというふうに指示されていた。
左手で受話器を取って、その受話器を左耳に近づけて電話の向こうの相手と会話をしつつ、右手ではメモを取って会話の内容を記録していくというスタイルが合理的だということでそのような指示をされていたと思うのだが、慣れるまでにとても時間がかかった。
左手の受話器がちゃんとわたしの声を拾って相手に届けてくれているかどうかが非常に不安であった。
それから何年かして、公認会計士試験の勉強を始めた際に、電卓を左手で叩くのが主流ということを予備校で教わった。
試験問題を解くときに、左手で計算をして、右手にはペンを握って解答用紙に書く―ーというスタイルが合理的だということでみんなそれをやっていたのだと思うのだが、試験問題に慣れてくると、電卓をたたく時間よりも問題内容を解読する時間のほうが圧倒的に長くて、そっちの時間をどうにかするほうが大切なので、左手で電卓を叩くことにはそれほどこだわらなくなった。
そういったわけで、ひとつ目の試練で受話器を左手で取る習慣が身についたのは今でも役に立っているが、ふたつ目の試練は乗り越えなかった・・・というお話である。